カテゴリー「ほらばなし」の記事

2015年4月29日 (水)

ミュウ6

以前「川」を見たときは

わたしはまだ「家」にすんでいた。

子ども達と、彼らの父親と。

にぎやかで、いつもいそがしく、

子どもの成長は早く

よろこびや悩みや驚きの日々だった。

わたしはとてもみちたりていた。

そしてときどき、

なにかを自分から隠しているようにおもうことがあった。

ある晩ふらりと一人で散歩に出て、

そのとき夜中の公園でそれをみた。

真夜中のだれもいない公園の月明かりにぼうっと浮き上がるように

川が現れた。

ながれはただ法則にしたがってあるべき場所に流れていく、

とかんじた。

わたしはしばらくぼうっとみとれ、

自分の中に流れる

私のほんとうにおもいをはせた。

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2015年4月28日 (火)

KENJI5

その日は川原でもういちどおじいさんにであった。

いつのまにか2,3人の小学生がやってきて石をいくつもいくつも川に投げている。

おじいさんに、

やぶのなかでとっていたものをきいてみた。

「かまきりのたまごだよ」

といってみせてくれた。

たまごからかえったばかりのかまきりのこどもは、

かれの服のなかにいる相棒?(と言っていた)の大好物らしい

もうじき初夏には数百匹のちいさなかまきりが、

たまごからでてくる。

そういえば、ぼくも子どものころ、

たまごをとってかえって、いつのまにかわすれていて、

気がついたら1㎝くらいの無数の子かまきりでへやがいっぱいになったことがあったっけ。。

。。。。。。。。。。。。。。。

おじいさんは今、川にそって旅をしているといった。

このへんはすこしおちつくので、

のんびりしてしまった、まあ、のんびりしたってぜんぜんかまわないんだ、

といって笑った。

なにやらぼくまでゆったりしたきもちになり、

ひさしぶりに

やぶにはいってかまきりのたまごをさがした。

なかなか見つからずに歩き回るうち

ぼくの体が大きいので、

やぶのなかに完全にみちができてしまった。

小学生が喜んでやぶのみちをはしりまわっている。

かまきりのたまごはみつからないが、

ぼくは

みちたりてタバコを吸い、

あおいけむりはたかくそらにとけていった。

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2015年4月26日 (日)

KENJI4

川に来た。

この川辺でよくきみとビールを飲んだ。

そうして夜中の道をふらふら歩いた。。。

。。。

川辺のやぶをがさがささせて、

おじいさんがでてきた。

ぼくにきづくと、

浅黒い顔をにんまりさせて「やあ」といった。

そうしてでてきたやぶとべつのやぶのなかにはいっていった。

がさがさと、やぶのなかでなにかを採集しているようだったが。。。

ぼくはまた思いに沈んだ。

これはほんとうに本意ではないが

どうどうとめぐる思いにとらわれている。

ぼくのゆくさきは

砂漠の中の遠い国になりそうだ。

きみに

もうきっと会わないのに

「きみにあえなくなってしまうな」

とかんがえている。

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ミュウ5

また、いた。

銀色の髪の浅黒いからだのちいさなやせたしっぽのながいおじいさん。

このごろはいつも風が強い。

その空中で、今度は寝ころがっていた。

「おう」

といったけど、

私は風にあおられて、そこをとおりすぎ、

「こんにちわ」

といった声はきっととどかなかっただろうなあ。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

そらのなかで久しぶりに川を見た。

川はこことは少し違う世界を流れているらしいんだけれど、

ときどきこんなふうにこの世界とまじりあう。

わたしたちは

いろんなものと影響しあっている。

目に見えるものはすべてただのイリュージョンであるのかもしれないし

目に見えないもののなかに「ほんとう」がひっそりと隠れているのかもしれない。

けんじくんのようなたたかいの、肉体の、充実のなかにも

わたしのしらない「ほんとう」がひそむのだろうか。

わたしも、そらも、川も、けんじくんも、あまりに違いすぎているようで

わたしは判断を放棄して、ぼんやりした。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

高い木のてっぺんを揺らした風がどううっとやってきて、

わたしをもっとうえにつれていく。

春の次には夏が来るんだったなあと思い出す。

おじいさんがとおくのほうで、ゆっくりとおきあがるのがみえた。

う~んとのびをして、

ひょろ~んとどこかにとんでいってしまった。

また、

あえるといいな。

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2015年4月 8日 (水)

ミュウ4

そのひとは

空中に浮かび

かぜのなかにすわっていた。

わたしとたいしてかわらないおおきさで、

すこし年取った様子だった。

ひふは浅黒く髪は銀色でながいしっぽをもっていた。

かぜのなかにすわるなんて

ずいぶんひねくれてるなあとおもったけれど、

なんだかハンモックにゆられてるように心地よさそうで

すっかりゆるんだようすで「やあ」

といった。

だぶだぶのシャツのなかから

ちいさないきものがでてきた

ねずみのようなけむしのようなりすのようなへんないきもの

そのいきものは強い風にあおられて

ふっと、飛ばされたが

よくみると細い糸でそのひとにつながっていた。

蜘蛛のようでもあるな。。

とおもった。

。。。。

わたしはかるく会釈をして

かぜにのりたかくのぼった。

かぜにすわるなんてどうやるんだろう。

わたしは

かぜのなかで

とどまることはできない。

だからいつも

ひとりでとんでいくんだ。

。。。。。

眼下にはちりはじめた桜が

けむるようにうすピンクで

春はらんまんとこのときをあじわい

さあ、これからどうするの?

とそこらじゅうに問いかけている。

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KENJI3

ぼくはいつも平和のために戦ってきた。

誤解を恐れずに言うなら、

ぼくは戦いが好きだ。

自分のすべての感覚を研ぎ澄まして、

アドレナリンが放出されて

ぼくはひとつの意志になる。

余計なことは何も考えずに

そのストイックな快感に身を任せるのだ。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

よけいなこと?

きみはよけいなことがすきだった。

。。

任務を終えた僕らが去った後の

あの村のことを思うのは

よけいなことだ。

いつかきみに戦いの話をしているとき

きみはぼくに

あの村のことをこまかくたずねた。

きみとおなじような女のことや

こどものことを。

ぼくがすこしふきげんになったので、

きみはまた、ぼくの胸に耳をつけて

話の内容ではなく声の音楽を楽しむように

くすくすとわらっていた。

きみはあのときほんとうに

わらっていたのだろうか。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

ぼくはやがてまた

渦に巻き込まれていくだろう。

きみのこともよけいなことも、とどかない渦の中へ

それはぼくののぞむ

シンプルで美しいひとつのいきかたではないだろうか。

ぼくはいつも平和のために戦ってきたんだ。

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2015年3月10日 (火)

ミュウ3

どこかう~んとたかいところで、

つめたさとあたたかさが入り組んでいるので

今夜はかぜがつよい。

春の雨が冷たく降った後

かえるたちは

すこしとまどっている。

今年の卵は

少ないかもしれないな。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

かつて一緒に暮らしたわたしのこどもたちはおとなになり

新しい春にいそがしくしているだろうか?

ずうっとむかし一緒に暮らした男は

だれかとしあわせになっているだろうか?

わたしはまたひとりで、

夜のそらを漂っているが

それがあんがい気に入っている。

さみしいきもちよりも満ち足りた気持ちで暖かい場所にいたころは

なぜかすこし不安だった。

今はとてもさみしくて、それがとても正当に思える。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

けんじくんの

理不尽さや、強引さや無理解に

わたしはひかれた。

私に組しない

わたしになじまない

わたしにまざらない

そういうあなたがすきだった。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

かぜはながれて、

わたしたちをあるべきばしょにはこんでいく。

さからってもやがて

わたしはまたここへもどってくる。

すこし孤独で、

限りなく自由なそらに。

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KENJI2

ぼくは今むしろ多少の危険を伴う場所に行きたいとのぞんでいる。

自分を目いっぱい使わねばならないようなところへ。

うつろの入り込む余地のないくらい。

きみはいつもふらりとやってきて、ぼくをつれだした。

そこは川原だったり、

アスファルトの道端だったり、

公園の高い木の根元だったりした。

ぼくらはいつもふらふらとあるいた。

あるいは、風が吹く場所でキスをした。

それからくらがりで、

だきあった。

きちんとした場所ではなく

いつも

「そこいらへん」で 笑

きみにそそのかされている

とおもうのが

ぼくはほんとうは

とても

楽しかったよ。

僕の日々はまたきちんとながれだした。

予定されたとおりに。

未来は

不透明だが、

ぼくはぼくの所属にしたがって

すすんでいくつもりだ。

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2015年3月 8日 (日)

KENJI 1

かたちというのはある程度必要なものだと思う。

ぼくは人よりすこし大き目の体格をしており、

規律のきびしめな種類の仕事に従事している。

時々こころがゆれるのを自覚するが、ゆれていては先に進まないので、

深く考えないことにしている。

ーきみは僕に、もっと揺れ動いてほしかったのかもしれない。ー

きみが僕を訪れなくなってから、

何度かこころをよぎったことだ。しかし、

それももう考えても仕方のないこと。

ちいさなきみの体は、いつもぼくのからだの首の辺りに位置して、

僕の首の後ろのたてがみを指にまきつけていた。

「やわらかいね」といって、いつもさわった。

きみはいつも風をまとってあらわれた。

「空のたかくに行き過ぎて風が離れるのにタイムラグがあってじかんがいるの」

という説明は今でもよくわからないが 笑

今年はまた、新たな現場に派遣されることになりそうだ。

世界はまたおおきくうごいていく。

意志にかかわらず、ぼくらはうずにまきこまれていくのを

こばむことはできないのだ

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2015年3月 6日 (金)

ミュウ2

しげみの中で眠っていたら、「コ、コ、コ。。。」と声がした。

あちらでも、こちらでも。

私は声に囲まれる。

動かずに耳に集中を集めた。気配は皆ひとつの方向に向いている。

ー池に。ー

控えめな声、だがしかし強い衝動。

ひきがえるたちだ。

今日は満月。すこしうずうずする。

体を動かすと、気配ははっと固くなる。

ごめん、と思ってそのまま空に出る。

つきあかりに梅の花がぼうっと浮かび上がる。

冷たい風の冷たい感じもすこしゆるっとして、

けんじくんのいない春がはじまっていた。

池は、ひきがえるたちの

暴力的なよろこびにあふれ

春は終わりと始まりを含んでどこまでもうすぼんやり。

わたしは空の高いところで、

すこしだけ泣いた。

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