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2019年4月

2019年4月29日 (月)

肺呼吸

酸素呼吸で生きている私の肺には空気が入っている。

だからどんなに深く沈んでも

どうしたって体は浮かびあがりたがる。

ここ、四国の南西の端は春がずんずんやってくる。

山も海も川も空も

鳥もカエルもとかげもイモリも大ミミズの勘太郎も蟹もエビもカメムシも

みんなそれぞれの体の仕組みにしたがって迷いなく行動する。

木も芽も花もどんどん自分を開いていく。

海は青くきらきらひかり、

水はゆるみ命が生まれ奇妙な幼生が溜まりに動いている。

その先の沖に去年の夏は泳ぎ出て

青い深い闇の潜む場所に強く惹かれてあこがれた。

美しくグロテスクな生き物や

官能的に開かれたサンゴの花びら。

海の深みはどうして狂気と連動しているのだろう?

これからまた何度もそこに潜っていくのだろうが

きっと必ず浮かび上がって、

太陽の下で

おおきく新しい息をすいこむのだ。

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2019年4月 2日 (火)

旅の空

夢と一緒に旅に出た。

夢はぼわぼわしてつかみどころがないが

小さなことは気にしないおおらかな性格なので

気を使わなくて楽な相手だ。

前を向くのに疲れると

私は夢をながめる。

脈絡のない物語のかけらがとおりすぎていく。

田舎のきれいな空気のもとで私の喉は生き返って

ロングトーンの一つの音の中に

たくさんのお話をこめることもできるようになった。

夢はときどき疲れて眠ってしまう。

道端で電池の切れたように、ぱたっと。

そういうときは

たったひとつの音で子守唄を歌う。

なにもこめない、音だけの美しさをもとめて私はほそーいながーい糸になって

山に谷にながれだしていく。

 

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風の谷

東京都国分寺市風の谷二丁目の団地にはいつもビル風が吹いている。

高層階に住んでいた私は「さぞかし眺めが良いでしょう」と言われたけれど

窓から見えるのは

隣の建物またその奥の建物。

延々つづく団地の灰色の森のよう。

風が吹いても森の木はびくともせず、換気扇の隙間から

「ひゅううう〜〜」という音が聞こえるばかり。

窓の外には白いビニール袋が舞い上がっている。

春が近づくと

カラスがこの森で縄張り争いをはじめる。

団地の北と南に僅かに残った雑木林をつなぐ、

中間地点の灰色の森。

風に流されながら数羽が飛び交い、よく見ると、

それは多、対 1、の争いでよそ者を攻撃しているのか?

よそ者とは流れ者なのか。行く場所のないはみ出し者か。

無理、とわかると潔く一羽はどこかに立ち去っていく。

 

団地の人口密度は気が遠くなるほど。

私の部屋の真下には5世帯、真上には七世帯が、重なって住んでいる。

それぞれの想念感情思考は団地の周囲に漂い、異質な感情の高い山と深い谷の間を流れる気流が

風を呼び起こすのか。

 

風の谷、と呼び始めてからここが好きになった。

風は

とどまらず吹き抜けていく。

天空からやってきて無感情に吹き荒れる

巻き上げてひきちぎっておおきなちからで私を持ち上げる。

わたしは群からはなれて

空にをかける。

大きな翼を持つ鳥人間が近づいてくる。

空に住む彼は感情を理解しない。

私が泣いても気にもとめず

しばらく並走していたが新たな気流にのって西に向かっていった。

わたしは行き先も持たず

気流にも乗れず

今もまだ途方もない空でさまよっているのです。

 

 

 

 

 

 

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