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2018年10月11日 (木)

露天風呂幻想

奥行きのあるS字の庭に7つほどの岩風呂が湯気を上げている。

月のない闇夜である。

細い雨が時折落ちてくる。

電灯がぽつりぽつりと灯り、

深い影の面に、白い湯気と庭木のしずくがうつしだされる。


闇の向こうから裸の女がゆらゆらと現れる。

白いからだが一瞬光に照らされるがすぐにまた影となる。

光りに浮かび上がるやわらかなシルエットが

ゆっくりこちらに近づいてくる。

若いのだか年増なのか逆光で顔も定かでない。


見とれていた私の後ろで水音がしたような気がしてふりむくと、

白い手ぬぐいをかぶった美しい女が、

湯船の中で空をみあげていた。

つられて私も目を上げれば、

厚い雲が切れ、

群青の空に星がひとつふたつ光っていたのだった。

薄雲の向こうにさらに、1つ2つ3つと星を求めた。

月の所在はいまだ明らかでない。

空の大半はまだ雲のものである。


ひととき空の事情に心を奪われ目をもどせば女の姿はなく、

音も立てずどこへ行ったやらわからない。

塀の向こうの藪がざわめいている。

闇夜にまぎれ、獣が湯につかりにきたか。


奥からは裸の女たちが立ち現れては消え、

にんげんの女のほうが姿がつかめず、よほど異界の者のように

ゆらりゆらりとのびちぢみし、

湯につかり、湯気を分け、

黙ってまた奥の闇にすいこまれていったのです。


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